ナラティブセラピーについて

ナラティブセラピーとは

ナラティブセラピーは、オーストラリアのホワイト(White, M. 1948〜2008)とエプストン(Epston, D. 1944〜)によって創始された、カウンセリング技法です。

ナラティブ(ナラティヴ)という言葉は、現在さまざまな分野で用いられています。
ナラティブ・アプローチ(社会学)、ナラティブ心理学(心理学)、ナラティブ・ベイスト・メディスン(医学)など、さまざまな言葉と組み合わさり、ポストモダンな、新しい時代のものの捉え方として広く活用されています。
その中で、当協会が呼称する「ナラティブセラピー」とは、ホワイトとエプストンによって創始された、ナラティブの考え方をベースとするカウンセリング技法を指します。
具体的には、ホワイト(White, M.)、エプストン(Epston, D.)、ペイン(Payne, M.)、マディガン(Madigan, S.)らの構築した技法をベースに、斎藤(Saito, T.)が自らの実践をベースに、日本人の文化特性に合うようにアレンジした理論と技法の体系を、当協会の「ナラティブセラピー」と呼んでいます。

このように、ナラティブはさまざまな分野で活用されていますが、これらはみな、「社会構成主義」という考え方をベースとしています。
社会構成主義とは、「現実は社会的に構成される」という考え方です。わたしたちの経験は、わたしたちの内的な能力とか性格とかの結果ではなく、社会的な関係性から生まれる解釈として理解され、わたしたちに意味付けられる、という考え方をいいます。つまり、わたしたちの「こころの問題」とは、わたしたちがダメな人間だからとか、能力が低いからとかいうのではなく、社会的に構成された結果として、わたしたちのこころに「問題」として取り憑いているのだ、と考えるのです。
これが、ナラティブセラピーの「人間が問題なのではない、問題が問題なのである」という理念に通じているのです。

※なお、当協会ではその前身の「NPO法人家族のこころのケアを支援する会」の時代から、「ナラティヴ・セラピー」と表記していましたが、当世の言語表記に倣い、「ナラティブセラピー」と表記しています。
そのため、本サイト内でも「ナラティヴ・セラピー」「ナラティブセラピー」の表記が混在していますが、あえて併記しています。ご了承ください。


ナラティブセラピーの歴史

ナラティブセラピーは、ホワイトが開発しました。彼は当時、ソーシャルワーカーとして働いていました。Wikipediaには、ホワイトは「オーストラリアのソーシャルワーカー、家族療法家」と紹介されています(https://en.wikipedia.org/wiki/Michael_White_(psychotherapist))。現場で起こるさまざまな問題の解決法として、ナラティブセラピーを開発し、1980年代に論文として発表し始め、少しずつ欧米の専門家たちに知られていきました。

日本におけるナラティブセラピーの歴史は、1992年、『物語としての家族』(White, M. & Epston, D. 小森康永(訳), 金剛出版)の出版によって始まりました。
その後、小森先生の精力的な翻訳によって次々とナラティブセラピーに関する書籍が出版され、少しずつ知られるようになりました。

ナラティブという言葉は、心理専門職だけに留まらず、さまざまな分野の臨床家によって関心が広がりました。特に、医療分野において「ナラティブ・ベイスト・メディスン」という考え方が広がったのは、ナラティブという言葉が多くの人びとに知られる契機となりました。また、野口裕二先生は、「ナラティヴ・アプローチ」と呼び、さまざまな分野への問題解決アプローチとして、ナラティブの考え方を紹介されています。

ナラティブセラピーは、特定の学術団体等の組織が現れず、個々の研究者や実践家たちによって研究され、実践されてきました。
現在では、ナラティブセラピーを研究するいくつかの自主グループが存在します。各自がナラティブセラピーの考え方や技法を研鑽し、自身の活動に役立てておられます。

わたしたちは、10年以上にわたるナラティブセラピーの研究と実践を通して、日本におけるナラティブセラピー実践のひとつの体系が構築できたため、2019年、ナラティブセラピーのさらなる普及啓蒙に努める目的から、当協会を組織するに至りました。


当協会のナラティブセラピーの提唱者、斎藤利郎について

斎藤利郎は、カウンセラー歴40年以上の実績を持つ家族療法家です。
彼は家族療法家としての活動の中でナラティブセラピーの論文に出会い、研究を始めました。
当時は訳本もなく、洋書を取り寄せ、翻訳しながら内容を分析し、カウンセリングに取り入れ効果を検証することの繰り返しでした。
研究がひと区切りついた2007年、「ナラティヴ・セラピー技法習得のつどい」を主宰、研究と同時に教育活動を始めました。この研修は途切れなく続いており、現在第13期生(2020年)が学んでいます。
研究を始めて12年が過ぎた2019年、今までの研究成果をひとつのかたちにと、彼の研究は1冊の本になりました。
『日本版ナラティヴ・セラピー スタンダード』
この本は、ナラティブセラピーが日本で実践されるための、理論的基礎を体系化した本です。日本人による日本人のための、ナラティブセラピー「標準」テキストです。

斎藤利郎プロフィール

トシ家族療法研究所所長、NPO法人家族のこころのケアを支援する会顧問
北海道出身。日本大学文理学部卒。日本ルーテル教団神学院、Lutheran School of Theology at Chicago(教育学修士)。アメリカにて家族療法を中心に様々な心理療法を学び、日本ルーテル教団牧師、浦和ルーテル学院(非常勤)、聖望学園中・高等学校(宗教主任)、開智中・高等学校(スクールカウンセラー)、武蔵野女子大学講師、東洋英和女学院短期大学非常勤講師等を経て、カウンセリング相談と技法研究をおこなう「トシ家族療法研究所」(1998)、そして「特定非営利活動法人家族のこころのケアを支援する会」(2003)を設立。現在は研究所所長、法人顧問として、ナラティブセラピーの研究と実践、普及に力を入れている。
東京多摩いのちの電話の研修講師、スーパーバイザーを長くつとめる。
著書「教育カウンセリングと家族システムズ」現代書林、「ピア・カウンセリング〜高齢者ピア・カウンセラー養成の試み」現代書林、「日本版ナラティヴ・セラピー スタンダード」当会発行 他



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斎藤 利郎 著
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